「しんちゃーん!」
「……」
「しーんーちゃーん!!」
「…………」
「ぱぱー!!」
「どーしたー?」


 パタパタと家の中を走り回っていたかと思えば、息を切らして俺の元へ駆け寄って来る愛娘の優。
 ソファに座り新聞を読んでいた俺の太ももに小さな両手をちょこんと置いた優は、眉を寄せてこちらを見上げながら「しんちゃんがいないの!」と告げた。
 ……ああ、この『真ちゃん』っていうのは俺の事じゃねぇぞ。先日優のために愛情を込めて作ったクマの人形のことだ。


「無くしたのか? それなら、新し」
「ちがうもん! きのーいっしょにねたもん! あさ、いなくなっちゃったんだもん!」
「そうか、脱走したのかー……じゃあ、その辺に」
「いなかったもん!!」


 大きな瞳に涙を溜め、食い気味に反論してくる優。泣かせてしまわないように必死で次の言葉を探していた俺に、エンジェルからとどめの一撃。


「ぱぱ……おねがい、いっしょにさがして?」




***




「クッ……涙目プラス上目遣いの優も可愛いのは当たり前だがあまりにも可愛すぎたな……」


 ぶつぶつと独り言を漏らしながらリビングで捜索していると、風呂場の方から「ぱぱー!!」と優の叫び声が聞こえる。


「優!? どうした!? 大丈夫か!? 外に覗きでもいたか!? もう大丈夫だ!! パパが殺してくるからな!!」


 何かあったのかとチーターにも余裕で勝てそうな速さで風呂場へ駆けて行くと、そこには俺が作ったクマの人形を抱いて満面の笑みを浮かべる優がいた。


(なんだ……? 可愛すぎるだろ、天使か……? いや、天使だったな……)
「ぱぱ! しんちゃんいた!」
「そうか、よかったな」
「うん!」
「……そんなにそれが好きか?」
「うん! しんちゃんだいすき!」


 フッ……大好きだとさ。よかったな、真ちゃん。まあ真の『真ちゃん』である俺には一生かかっても勝てないだろうが今日のところは譲ってやるよ。


「ゆうのたからもの3ごーなの!」


 3号?


「……1号と2号は何だ?」
「えっとね……1ごーが、ぱぱとままでしょ? 2ごーが、きっちゃんたち!」
(……俺の作った人形が樹久達よりランク下なのは気に入らねーが、優が可愛いから許す)