皆さんはじめまして。
 このお話の……一応、ヒロインポジションである高峰優ちゃんの通う小学校――1年2組担任教師、上原愛子です。26歳、彼氏なしです。

 今日はなぜ私が進行担当かと言うと、


「はーい、2組の皆さんはこっちに並んでー!」
「優ちゃ……高峰さんはこっちに並んでー!」
「城田さん、余計なことを言わないでください。高峰さんも素直に並ばないでいいのよ!」


 本日は、社会見学の日なのです。

 やって来たのは、高峰さんのお父様が副社長を務める某大手おもちゃ会社のおもちゃ製作工場。
 そして、見学許可をもらって来たのは我が校の教頭……の友達の、城田樹久さん。

 彼がなぜこの小学校の社会見学について来ているのかは……私が聞きたいです。


「皆さん、いらっしゃい。上原先生、いつも娘がお世話になっています」
「い、いいえ! こちらこそ!」


 スーツの襟を正しながら現れたのは、高峰(父)さん。

 さらりと流れる黒髪に、優しく細められるくっきり二重の目。私の名前を呼ぶ甘い声。
 ああ……っ!やっぱりかっこいい……っ!


「よう真也! きっちゃんも来たぞ!」
「上原先生、1年2組の皆さん、こちらへどうぞ。樹久くんは土に還ってくださいね」
「うーん、存在をスルーされなかっただけ嬉しい!」


 高峰(父)さんもとびきりイケメンだけれど、ご友人らしい城田さんもイケメンである。

 ただ……隣に綺麗な薔薇が咲いていると、コスモスは影が薄くなるようなものと言うか……。


「城田さん、頑張ってくださいね……」
「上原先生、なんでそんな哀れみの目で見てくるんですか」



***



「わー!」
「すごーい!」
「あれなーにー!? ゆうちゃんのおとーさん!」


 ガラス越しに見えるベルトコンベアー。様々な部品がそれに乗って流れてくると、子供たちは歓声をあげる。

 素敵な高峰さんのお父様はふっと微笑み、


「あっちはスペシャルマンで、あっちが器面ヤイバー。そしてあれはラブキュアだよ」


 一つ一つ指差しながら、丁寧に説明をしてくださった。

 ああ……素敵……!


「すっげー!」
「ポシェモンもある!?」
「ラブキュアー!」


 あ、最後のは優ちゃんです。


「みんなー! しっかりメモしてねー!」
「優ちゃんはこの婚姻届にサインしてねー!」
「樹久くんは人生からログアウトしてねー」


 朗らかな笑みと共に、高峰(父)さんは城田さんの頭を鷲掴みにしガラスに叩きつける。

 幸い、子供たちは工場に夢中で一連の流れを見ていなかった。
 ベルトコンベアーだけに。


「じゃあ、次に行きましょうか」
「はい! みんなー、ちゃんとついて来てねー!」
「はーい!」


 少し進むと、先ほどよりも広い場所に出る。


「ここは主に人形を作っていて……あっちがリリちゃん人形、あっちがポムちゃん人形、そしてあそこがラブキュアだ」
「ラブキュアだー!」


 ラブキュア、2回目ですね。


「あそこに見えるのが、ポミカ。あっちがベンブレード、あそこがラブキュアで、あっちがアニマルファミリー。あれはコシアンマンゾーンで、そしてあそこがラブキュアだ」
「ラブキュア多くないですか?」


 そうですか?なんて、きょとんとした顔の高峰(父)さんも素敵です。

 むくりと起き上がった城田さんは、鼻血を押さえながら付け加えた。


「コイツ、優ちゃんのためだけにラブキュア専用工場も建てたんですよ」
「え……っ」


 ……高峰(父)さんは相当の親バkいえ、娘さんをとても大事にしているとは知っていたけれど……。
 凄すぎませんか?色々と。



***



 子供たちは自由時間。工場のスタッフさんに1人付いていただき、チームに分かれて工場内を自由に詮索してもらう。

 その間、私と高峰(父)さんと城田さんは休憩所で雑談。


「それにしても……高峰さん、すごいですよねぇ」
「俺ですか?」
「はい」


 28歳にして、副社長だなんて。

 そう呟くと、高峰さんは息を吐くように笑って缶コーヒーを一口飲み込む。


「いえ、俺一人だけの力ではありませんから」
「俺がいれば百人力です!」
「そうだな。百人分の力で俺の足を引っ張るな、お前は」


 真也ひどい!俺達親友だろ!と泣く城田さん。

 苦笑しつつそれを眺め、もう一度口を開いた。


「えっと……高峰さんは、」
「ああ、優と一緒になって言いづらいでしょうから、名前で呼んでくださって構いませんよ」
「えっ……?」
「気軽に“真也”と呼んでください」


 や、やだ……高峰さんったら……!
 そんな……そんなにかっこよく爽やかに笑いかけられたら私……!


「真也、お前ホストみたいだぞ。いたいけな上原先生を口説くなよ」
「は? 口説く? 普通だろこんなの」
「お前って本当に罪な男だな」


 高峰さん……!私、ドキドキで壊れそうです……!


「し……真也さん、は……他にも、資格とか持っていらっしゃるんですか?」
「ああ、はい。ありますよ」


 きっと、保育士免許とかそういう可愛い資格を……、


「簿記、保育士、調理師、美容師、空手……あと、小学校教員免許と高等学校教員免許も一応。他にも……公認会計士、司法書士、税理士、弁理士、弁護士、秘書、防災士……」


 ちょ……ちょっと待って、


「それから、えーっと……一級建築士、ソムリエ、大型自動二輪、小型船舶操縦士、スキューバーダイビングインストラクター、操縦者技能証明……ああ、これは飛行機のことです。あとは……国家試験の第一種情報処理技術者試験にも合格したし……」
「歩くユーキャンですか貴方は。どれだけ資格持ってるんですか」


 真也さんは微笑みを絶やさず、


「最近は、看護師と医師と薬剤師の免許も取りました」


 と続けた。

 城田さんが補足してくれた説明によると、優ちゃんが風邪を引いたのがきっかけだそうで……。
 そうだ、京都に行こう。なんて軽いノリで取れるものなんですかスゲーなオイ!!


「ご、ご趣味は……?」
「ピアノ、合気道、スノーボード、チェス、ビリヤード……あとは……乗馬、フランス語、射撃、バスケットボール、アーチェリーなどを少々」


 何でもできるんですかこの人は。
 逆に何ができないんですかこの人は。


「な? ヤバいでしょう? コイツ。化け物ですよ、化け物。優ちゃんのモンペなんかやめて、異世界に行ってこのチート能力で無双したり顔の良さで美少女を惚れさせてハーレムでも築いてろって思いません?」
「意味がわからないから樹久くんは一生黙っててね」


 城田さんの鼻の穴に、缶を挿入する真也さん。

 ……挿入する場所とモノが違いませんか?そこは……ゴホン!何でもないです!


「……彼氏、欲しいなあ……」


 普通の、普通にかっこよくて普通に色々できる彼氏が。
 真也さんは高嶺の華。よくわかりました。


「上原先生。城田の胸、あいてますよ。慰めましょうか」
「なんでやねん!」
「うん、思ってたより雑に流された。ベルトコンベアーだけに」
「お前、頼むからマジで250年くらい黙っててくれるか」
「長くね? その頃には本当に一生物言わぬ屍になってるよ? 俺」