彼は自分の素性を述べたので、彼女からも自己紹介めいたものが何かあると期待したが、彼女はその期待を十分に裏切ってきた。 「分かりました。さようなら。」 「ちょっとおい! 俺も名乗ったんだから、あんたも名乗れよ。」 「人様に、名乗るほどの人間じゃないし、急に追いかけてくるようなストーカーに名乗るほど馬鹿じゃないわ。」 そう言い捨てて、彼女は逃げるように、彼を残してそそくさと棟内から出て行ったのだった。 「ったく、なんだよ、あいつ。」 彼は1人、掲示板の前で、そう叫ぶしかなかった。