レポート


「ちょっと、離して‼」

 ホールの近くまで行くと、彼が急に止まったので、彼女は自分の左手を握りしめる彼の手を振りほどき、掲示板近くの壁沿いに逃げる。

「あんた何。

 ストーカーじゃないなら痴漢?

 警察呼ぶわよ。」

 走ったことも相まってか、息づかいが荒くなる。

「だから違うって。

 あそこじゃ暗いし、ここだと明るいから顔が見えるだろ。」

 彼は壁の方に近づき、「いきなりゴメン」と謝りながら話し出す。

「顔ならさっきエレベーターで見えたでしょ。」

「いや、途中で電気が消えたし、俺も焦ってたから、顔をよく見てなくて。

 あと、お礼もしてなかったし。

 それにあんた言っただろ。素性を名乗れって。」

 そう言うと、彼は優しくニコッと笑うと、次は顔を引き締めて口を開く。