翌日、わたしは『鹿子家』の前に立ち、そわそわしながら待っていた。
 すると千彰先輩が、息を切らしてやってきた。
 手のなかには大事そうにケーキの箱を抱えている。

 モンブラン……ほんとうに作ってきたんだ。

『おれのこと、信じろ』

 昨日、先輩はそう言ったけど、あのあとずっと考えていた。
 ガンコなおじいちゃんにモンブランを食べさせるなんて、やっぱり無謀な挑戦なんじゃないかって。

 でもおじいちゃんに認めてもらいたいって気持ちもある。
 ああ、もうどうしたらいいのか、わかんないよ。

「桃花!」

 頭を抱えたわたしに、千彰先輩が駆け寄ってくる。

「じいさんは?」
「お店にいる」
「よし! 行くぞ!」

 先輩の作戦は、お店がはじまる前、準備中のおじいちゃんに、モンブランを持って行って食べさせること。
 ただそれだけ。

 ぜったいうまくいくって、先輩は言うけれど。これって作戦とは言わないんじゃない?