もうやだ、もうやだ、もうやだ。
 おじいちゃんのバカ! ガンコじじい!
 おせんべいみたいに、ぺっちゃんこになっちゃえばいいんだ!

「おいっ、待てよ! 桃花!」

 商店街の途中で、千彰先輩に手をつかまれた。
 わたしはぐすっと鼻をすすってつぶやく。

「ごめんなさい……先輩」

 千彰先輩は黙ってわたしの声を聞いている。

「先輩はおじいちゃんのおせんべいを、大好きって言ってくれたのに、それなのにおじいちゃんは……」

 くやしくて、かなしくて、涙がぽろっとこぼれる。
 こんなところで泣いたら、先輩が困ってしまうのに。

「それでケーキ、買ってもらえなかったのか……」

 先輩の声に、ちいさくうなずく。

「でももういい。あんなおじいちゃんの言うことなんか、ぜったいきかない!」
「そんなこと言うなよ」

 顔を上げると、先輩がすこし笑って言った。

「ケンカはよくない。家族なんだから」

 まさか先輩にそんなこと言われると思わなかったから、わたしはとまどった。
 先輩はわたしの手を、ぎゅっとにぎりしめて言う。

「よしっ! おれのモンブランをおじいちゃんに食ってもらおう!」
「え?」
「そんで『うまい!』って言ってもらって、おれたちのことも認めてもらおう!」
「む、無理だよ……」
「やってみなきゃわかんねぇだろ!?」

 先輩がわたしの顔を見る。わたしたちの目が合う。

「明日の土曜日、モンブラン作ってくる。おれのこと、信じろ」

 わたしはごしごしと涙をこすって、「うん」と千彰先輩の前でうなずいた。