「うそじゃねぇよ」

 だけどわたしはぶたれなかった。
 おそるおそる目を開くと、美咲先輩の手をつかんでいる千彰先輩の姿が見えた。

「ち、千彰くん?」
「おまえが教室にいねぇから、もしやと思って来てみればやっぱりか」
「え、千彰くん……キャラちがくない?」

 すると千彰先輩が、乱暴に美咲先輩の手を振り払って叫んだ。

「あー、もうめんどくせぇ! 優等生ぶるのはやめやめ!」

 美咲先輩はぼうぜんとしている。
 まわりのみんながざわざわと騒ぎだす。

 千彰先輩はきっちり締めていたネクタイをぐいっとゆるめると、いきなりわたしの肩を抱き寄せて言った。

「こいつ、おれの彼女なんだわ。ニセ物じゃなくて、本物のな! だからこいつに指一本でも触れたやつは、おれがしょうちしねぇからな!」
「ち、千彰先輩……」

 ヤバいです。王子さまキャラ崩壊してます。これじゃまるでヤンキーです。
 先輩はまわりのみんなを見まわして、さらに怒鳴った。

「おまえらも全員! わかったな!」

 わたしたちを取り囲んでいた生徒たちが、「ひっ」とちいさな悲鳴を上げて逃げていく。
 美咲先輩は、へなへなとその場に座りこんだ。