「はっきり言わせてもらうけど」

 わたしは廊下の端っこで、美咲先輩と向き合っていた。

 呼びだされたわたしのことを心配して、香奈ちゃんたちがついていくと言ってくれたけど、それを断ってひとりで来た。
 わたしも美咲先輩に言いたいことがあったからだ。

「あんた千彰くんのニセ彼女のくせにさ、もういい加減、千彰くんにつきまとうのやめてくれない?」

 わたしは震える手を、ぎゅっとにぎりしめる。
 怖い。怖いけど……いつまでもびくびくするのはもう嫌なんだ。

「や、やめません」
「は?」

 わたしの声に、美咲先輩が思いっきり顔をしかめる。

「わ、わたしが千彰先輩にふさわしくないのはわかってます。でも先輩の近くにいること、やめたくありません」
「なに言ってるの、あんた。生意気だよ!」

 美咲先輩の手がわたしを押した。わたしは壁にどんっと突き飛ばされる。
 廊下を歩いているひとたちが足を止め、こっちを見た。

「ふさわしくないってわかってるなら、やめなよね。ニセ物のくせに!」
「に、ニセ物じゃありません!」

 つい叫んでしまった。

 いつの間にかわたしたちのまわりに人だかりができている。
 藍ちゃんと香奈ちゃんが、心配そうに見つめているのもわかる。
 でもわたしは逃げないで言った。

「わ、わたし、千彰先輩の彼女になったんです! だからもう、逃げません!」
「は? うそばっかり言わないでよ!」

 美咲先輩の手が振りあがった。

 ひっ、ぶたれる!

 わたしはぎゅっと目を閉じる。