「栗原さーん、治療終わりましたよ」
「は、はいっ」

 先輩がわたしの肩から手を離し、あわてて立ち上がる。

「もう大丈夫ですからね。しばらくおうちで様子みてあげてください」
「ありがとうございます!」

 ぺこっと頭を下げた先輩が、猫を抱こうと手を差しだす。
 けれど猫はまた「シャー!」っと怒った声を上げた。

「あらあら、困ったわね」

 苦笑いする獣医さんの前で、先輩が振り返ってわたしを呼んだ。

「桃花、頼む。こいつを抱いて、うちまでついてきてくれないか?」

 千彰先輩の家に?
 でもこの猫、先輩にはなついてくれそうにないし……

「わ、わかりました」

 わたしは立ち上がり、獣医さんの手から猫を受け取った。