「あれ?」

 なのにわたしの目からは、ぽろんっと涙がひとつぶこぼれた。

 どうして? どうしてわたし、泣いてるの?

 千彰先輩とわたしは釣り合わない。
 千彰先輩にはもっと似合うひとがいる。
 だからわたしは美咲先輩の言うとおり、千彰先輩から離れようと思ったのに。

 ぽたぽた、ぽたぽた……

 スカートの上に涙が落ちて、止まらない。

「も、桃花?」

 突然泣きだしたわたしのとなりで、先輩があわてている。

「どうしたんだよ、泣くなよ」
「ふ、ふえ、ふえーん」

 泣いちゃダメだって思えば思うほど、涙が止まらないよ。

 すると千彰先輩が、わたしの肩をそっと抱き寄せた。
 わたしの体が、ふわっと先輩の体に寄りかかる。
 先輩はやっぱり、あまい匂いがする。

「なぁ、桃花。おれたちつきあおう?」

 わたしの耳元でささやく、千彰先輩の声。

「『ふり』じゃなくて、ちゃんとつきあおう?」

 先輩? なに言ってるんですか?

 先輩はわたしの両肩をぐっとつかんで、わたしの顔をまっすぐ見つめた。

「そしたらもう、誰にも文句は言わせない」

 わたしは涙のうかんだ目で、先輩の顔を見返す。

「桃花。おれとマジでつきあってくれ」

 そのとき診察室のドアが開いた。