すこし歩いたところに、動物病院があった。
 この時間は診察時間外だったけど、千彰先輩の知っている病院らしく、特別に診てもらえることになった。

 そしていま、猫は診察室で治療を受けている。
 わたしと千彰先輩は、誰もいない待合室で、ならんで椅子に座って待っていた。

 なんだかすごく気まずい。

 すると先輩がぽつりと口を開いた。

「なぁ、桃花……」

 わたしは先輩の顔を見ないようにしながら、ぎゅっとスカートをにぎりしめる。
 先輩はそんなわたしを見て、やわらかそうな髪をくしゃくしゃとかきまわしていった。

「さっき桃花の友だちから聞いたよ。美咲たちが、桃花にひどいこと言ったんだってな?」

 わたしはハッと顔を上げて先輩を見る。
 藍ちゃんたちが、話したんだ。美咲先輩のこと。

「それでおれのこと避けてるんだろ? ごめん」

 千彰先輩が髪をかく手を止めて、じっとわたしの顔を見る。
 わたしは静かに首を横に振った。

「先輩が……謝ることないです。でももうわたし……先輩のニセ彼女やめます」

 先輩がハッとした顔をして、ぶんぶんっと頭を振る。

「ダメだ。それは困る」
「大丈夫ですよ。わたしなんかより、もっと先輩に似合うひとに、ニセ彼女になってもらえばいいんです」

 わたしは先輩のとなりでにこっと笑った……つもりだった。