「おじいちゃん!」

 家に帰ると、わたしは念を押すようにおじいちゃんに言った。

「さっきのひと、ほんとうに彼氏じゃないからね!」

 おじいちゃんはため息をつき、すこし肩を落としてつぶやく。

「ああ、もういいんじゃ。さっきはいきなり怒鳴って悪かった。桃花ももう高校生になったんじゃ。おつきあいする男性がいてもおかしくはない」
「へ?」
「わしも反省しとる。桃花のことを心配するあまり、口うるさくなっておった」
「おじいちゃん……」
「これからは桃花のやりたいことをやってみなさい。人生なにごとも経験じゃ」

 わたしはおじいちゃんを見つめる。
 まさかおじいちゃんの口から、そんな言葉が飛びだすとは思ってもみなかった。

 おじいちゃんは静かにうなずいて、わたしに言う。

「ただし、西洋の菓子だけは食べてはならん。ああ、今度さっきの彼氏に、わしの作ったせんべいを持っていってやりなさい」
「えー!?」

 それって、ぜんぜん変わってないじゃない!
 西洋のお菓子を食べるのだって、立派な経験でしょ!?

「じいちゃんのせんべいは日本一じゃ。それを忘れんように」

 おじいちゃんはそれだけ言うと、お店のほうへ行ってしまった。
 わたしはぺたんっとその場に座りこむ。

 やっぱり先輩がケーキ屋さんの息子だなんて、おじいちゃんにはぜったい言えないよ。