「おれ、桃花さんとおつきあいしている、栗原といいます!」

 え、え、えー!?

「桃花さんの一個上の高校二年で、家は学校のそばのケーキショッ……」
「わー!!」

 勝手に自己紹介をはじめた先輩の声をさえぎる。

「ちがうの、おじいちゃん! おつきあいなんかしてないよ!」

 おじいちゃんが渋い顔でわたしと先輩の顔を見る。
 千彰先輩がケーキ屋さんの息子だってこと、おじいちゃんにバレたら大変だ。

「これにはいろいろわけがあって……先輩とはつきあってるふりをしてるだけなの! ね? そうですよね、先輩!」

 つい大声で言ってしまい、ハッと気づく。

 商店の陰に、美咲先輩がかくれているのが見えた。
 美咲先輩はじっとこっちを見たあと、すばやく背中を向けて立ち去っていく。

 聞こえちゃった? いまの。

 あわてて千彰先輩の顔を見る。
 先輩はなにも言わず、なぜかがっかりした顔をしている。

「なにか匂うな」

 するとおじいちゃんが、くんくんっと鼻を動かし、先輩に近づいた。

「あまい匂いがするんじゃが……」

 ヤバい。先輩ってマロンクリームのいい匂いがするから……

「お、おじいちゃん、帰ろう! じゃ、先輩、さよなら!」

 わたしはおじいちゃんを強引に家のほうへ向かわせる。

 振り返ると先輩が黙ってわたしを見つめていた。
 なんだかちょっとさびしげに。

 わたしは先輩から逃げるように、おじいちゃんの背中を押しながら家へ帰った。