「せ、先輩! これ、味見しました!?」
「いや。完成したのが待ち合わせ時間ぎりぎりだったから、まだ」
「味見はしたほうがいいと思います!」

 そう言ってフォークにのせたマロンクリームを差しだす。
 先輩は不審な顔をしたあと、あーんと口を開けてそれを食べた。

「んぐっ」

 とたんに青ざめた先輩が、わたしの手からペットボトルを奪い、それを口に含む。
 そしてお茶といっしょにクリームをぺっと地面に吐きだした。

「おえっ、なんだこれ!? まずっ」
「たぶん……砂糖と塩を間違えたんじゃ……」

 そんなギャグ漫画のような間違いするひと、いるわけないって思ってたけど。

「…………そうかも」

 いるんだ!? ここに!

「そんな初歩的なミス、ありえないと思いますけど!?」
「いや、悪い悪い。砂糖も塩も白いからさ。あ、じゃあスポンジもそうかも」

 千彰先輩はクリームの下のスポンジもひとくち食べて、ぺっと吐き出した。

「やべっ、やっちまった」

 わたしはあきれた顔で、先輩を見る。

 もしかして千彰先輩って、ヤバいほどお菓子作りがヘタなんじゃ……

 ははっと苦笑いしたあと、先輩はわたしの手から、そっとケーキの箱を取り上げた。