「ここまでくれば、もういいだろ」

 先輩の家は反対方向なのに、こんなところまで来ちゃってる。

「最初だけだ。そのうちみんなあきらめて、おれたちのことなんか気にしなくなる」
「そ、そうでしょうか……」

 あんまりそうとは思えないけど。だって千彰先輩の人気はすごすぎる。
 わたしこれから、SNSに顔さらされちゃって悪口書き込まれたり、トイレに呼びだされて水かけられたり、しちゃうんじゃない?

 ぶるっと震えたわたしのとなりで、先輩が言う。

「あんたっちどこだ? ついでだから送ってく」
「えっ」

 わたしは立ち止まる。おじいちゃんの顔が頭に浮かぶ。

 もし千彰先輩の姿をおじいちゃんに見られたら。
 もし千彰先輩がケーキ屋さんの息子だってバレたら。

 わたしは先輩の前で、首をぶんぶんっと横に振った。

「いえっ、ここでけっこうです! さよなら!」

 ぺこっと頭を下げて、逃げるように走りだす。

「あっ、桃花!」

 そんなわたしに先輩が言った。

「お礼に次の日曜、モンブラン倍増すっから!」

 振り返って先輩を見て、わたしはごくんと唾を飲む。

 先輩はまた、ちょっとかわいいあの笑顔を見せると、わたしに向かってひらりと手を振った。