「え、桃花、知らないの? 『ケーキショップ・マロンクリーム』!」
「う、うん」
「じゃあ『マロンクリームの王子さま』も?」
「なにそれ? 王子さまって……」

 ふたりがさらに驚いた表情で、顔を見合わせる。

「まぁ、しょうがないか、桃花はおこちゃまだから」
「うんうん。イケメンアイドルにも、イケメン俳優にも興味ないしね」

 すみませんね、アイドルに興味なくて。
 だってうちのテレビは、おじいちゃんの好きな演歌歌手や、昔の時代劇しか見せてくれなかったから、そういうのわかんないんだもん。

 すると藍ちゃんが、ちいさな子どもに言い聞かせるように、ゆっくりとしゃべりはじめた。

「あのね、桃花。『ケーキショップ・マロンクリーム』っていうのは、学校の近くにあるおいしいケーキ屋さんなの。で、そこの息子さんで、うちの学校の栗原千彰(くりはらちあき)先輩ってかたが、『マロンクリームの王子さま』なのよ」
「へ? ケーキ屋さんの息子がなんで王子?」
「キラキラのイケメンで、すらっと背が高くて、超カッコいいらしいの。放課後は先輩がお店番してるから、女子生徒が大勢つめかけてくるんだって」
「でも藍ちゃんは見たことないんだよね?」

 わたしが言ったら、藍ちゃんが興奮したように叫んだ。