この前買ったモンブランは、マロンクリームがきれいな山型になっていたけど、今日のはなんだか崩れている。
 しかも絞りかたが、ふにゃふにゃ。

 もしかして先輩が猫と格闘しているうちに、崩れちゃったのかな?
 ちらっととなりを見たら、先輩が超真剣な顔つきでわたしを見ていた。

 え、なに? 怖いんですけど。
 わたしはあわてて、なかに入っていたフォークを手に取る。

「い、いただきます」

 先輩がガン見しているから、すごく食べにくいけど……
 フォークでマロンクリームをすくって、口に入れた。

「ん?」
「どうだ!?」

 千彰先輩がずいっと顔を近づけた。
 わたしはケーキの箱を持ったまま、体をずらす。

 先輩、顔、近いです。

「ん、んー?」
「どうなんだよ!?」

 やっぱり味も、この前と違う。

 この前のマロンクリームは、もっとあまくて、口のなかでとろんっととろけた。
 でも今日のはあんまりあまくないし、口に入れたらやわらかすぎて、べちょべちょする。

「お、おいしいです」

 わたしは苦笑いしながら、そう答えた。
 だって「おいしくない」なんて、言えないよ。

 フォークでスポンジをちいさく切る。
 そしてそれを食べてみた。

 ん? やっぱりこれもちがう。
 なんだかパサパサしていて、ぜんぜんしっとり感がない。