「こっち来い」
「あ、はい」

 おそるおそる近づく。先輩はベンチの上をとんとんっと叩く。

「ここ座れ」
「はい」

 言われるままに、ベンチの端っこにちょこんと座ると、先輩がちいさな箱を差しだした。
 こ、これって、もしかして……

「モ、モンブランですか!?」

 興奮を隠しきれず、つい口にしてしまったら、先輩がちょっと顔をしかめた。

「そんなに好きか? モンブラン」
「はい! 大好きです!」

 となりに座る千彰先輩と、また目が合った。
 ふたたび心臓がドキッとする。

 いやいやいや、べつに先輩のこと「大好き」って言ったわけじゃないし。
 わたしどうしちゃったんだろう。なんかおかしい。

 すっと先輩から目をそらしたら、わたしの膝の上に、先輩が箱をとんっと置いた。

「食ってみろ」
「い、いいんですか!?」
「そのために来たんだろ?」

 わたしは千彰先輩の前でこくんっとうなずく。
 ケーキが食べられると思ったら、顔が自然とにやけてしまう。

「で、では、遠慮なく」

 ちいさな箱を丁寧に開ける。

 なかに入っていたのは、この前と同じモンブラン……じゃない?
 なんかちょっとちがう。

 わたしは箱のなかのモンブランをじいっと見つめる。