そしていよいよ日曜日の午後。
 お店でおせんべいを焼いているおじいちゃんに見つからないよう、わたしはこっそり家を出た。

 家からわたしの通う高校までは、徒歩で十五分くらい。
 商店街を抜け、小学校の前を通り過ぎ、坂道をのぼっていく。
 坂道のてっぺんに学校があって、その先の住宅地に、千彰先輩と約束した公園がある。

 公園の近くに行くと、突然「ギャー」という叫び声が聞こえてきた。
 もしかしてこの声は――

「桃花! その猫つかまえろ!」

 公園の入り口で、ピタッと足を止める。
 この前ケーキを食べたベンチのほうから、一匹の子猫が猛スピードで走ってくる。

 わたしは両手をおおきく広げ、がばっと猫をつかまえた……つもりだったんだけど。

「ああっ……」

 猫はわたしの横をするりとすり抜け、住宅街のほうへ走っていってしまった。

「くそっ、また逃げやがった」

 そう言って機嫌悪そうに、髪をくしゃくしゃかいているのは千彰先輩だ。
 今日も足をケガした子猫を助けようとしたのに、逃げられちゃったみたい。

「すみません……つかまえられなくて……」

 千彰先輩は髪をかく手を止め、きれいな瞳でわたしを見る。
 わたしの心臓が、なぜかドキッと跳ねる。

 すると先輩はどかっとベンチに腰を下ろし、手をひらひらさせ、えらそうな態度でわたしを呼んだ。