マロンクリームの王子さまは、わたしのことが好きみたい!?

「あの、どうしてこんなところにいるんですか?」

 一個目の鮭おにぎりを食べ終わって、わたしは聞いた。
 先輩は上を見上げたまま、ぼそっと答える。

「教室にいると、めんどくせぇんだよ。女がいちいち声かけてきて」

 それはやっぱり、見た目が王子さまだからでしょう?
 だけど千彰先輩って、女の子があんまり好きじゃないのかな?

「でもあいつら客でもあるから、失礼なことはするなって親父に言われてて……いまはネットでなに拡散されるか、わかんねぇだろ? だから休み時間は寝てるふりで、なるべくまわりと関わらないようにして、朝と昼休みはここで時間つぶしてる」

 へぇ……王子さまもなかなか大変なんだな……

 渡り廊下を歩く、女子生徒たちの笑い声が聞こえてきた。
 千彰先輩は、ちいさくため息をついて立ち上がる。

「じゃ、おれは行くわ。ここもうるさくなってきたから」
「あ、はい」

 先輩がやわらかそうな髪をくしゃっとかく。
 ピンク色の花びらが、はらりとわたしの膝の上に舞い落ちる。
 ゆっくりと歩きだす先輩の背中は、朝からなんだか疲れて見えた。

「ち、千彰先輩!」

 そんな先輩に向かって声をかける。

「あのっ、先輩のお店のモンブラン、すっごくおいしかったです。だから……日曜日、楽しみにしています!」

 わたしの声に、先輩がゆっくりと振り向く。
 そしてそのきれいな瞳でわたしを見つめ、うれしそうに笑った。