「ここ座って食え」
「あ、はい」

 ぺこっと頭を下げて、ちょこんとベンチの端に座った。
 先輩はそんなわたしのことをじいっと見ている。
 なんだかすごく気まずいけど、早く食べないと怒られそうだから、包みを開いた。

「あの……一個食べます?」

 三つあったおにぎりの一個をおそるおそる差しだしてみる。
 先輩は怒った顔でわたしに言う。

「なに言ってんだ。貴重なおにぎりなんだろ? ちゃんとぜんぶ食え! おれのことなんか気にするな!」
「は、はい」

 貴重なおにぎりってわけじゃ、ないんだけどね……それに「気にするな」って言われても気になるよ。
 だって怒っていても、先輩の顔はすっごくきれいで、そんなきれいな顔で見つめられたら、誰だって緊張しちゃう。

 しかたなく先輩のとなりで、おにぎりをもそもそと食べる。
 登校してきた生徒たちのざわめきが遠くに聞こえるけれど、このあたりを通るひとは誰もいない。
 千彰先輩はわたしのとなりで、退屈そうに桜の木を見上げた。