「え?」

 ところがそのベンチには先客がいた。

 あおむけに寝転んで、目を閉じている男子生徒。
 春のそよ風に桜の花びらがはらはらと舞い、マロンクリーム色の髪にふわりと落ちる。

 そしてその頬には、絆創膏が……

「ええっ、千彰先輩!?」

 つい叫んでしまい、あわてて口をおさえたけど遅かった。
 目を開いた千彰先輩が、じろっとわたしをにらみつけ、のっそりと体を起こす。

「あぁ? またあんたか。せっかく気持ちよく寝てたのに、起こしやがって」
「ご、ごめんなさい!」

 わたしがおにぎりの包みを抱きしめ頭を下げたら、先輩が不思議そうに聞いてきた。

「なんだよ、それ」
「あ、えっと、今日朝ご飯食べてないので、ここで食べようかと……」
「……家でメシ、食わせてもらえないのか?」

 先輩が眉をひそめる。わたしはあわてて頭を振る。

「ちがいます! ちょっとわけありで、家にいたくなかったんで!」
「家にいたくなかった? そんなに家庭環境悪いのか? あんたんち」

 わー、どうしよう。なんかいろいろ誤解されてる。

 ちがうんです、ちがうんです!
 おじいちゃんがちょっとガンコ者なだけで、うちは普通の家庭ですから!

 すると千彰先輩がスッと横にずれ、となりをあけてくれた。