その日の夜は、おじいちゃんと顔を合わせないよう、「勉強しながら食べる」と言って、夕飯を自分の部屋で食べた。
 翌朝は「学校で委員会の仕事があるから」とうそをつき、ささっとおにぎりをにぎって、それを持っていそいで家を出た。

「はぁ……」

 学校に着いたらため息がもれた。

 せんべい屋の娘に生まれたからって、なんでこんな苦労をしなきゃいけないの?
 おじいちゃんもおせんべいばっかり食べてないで、『マロンクリーム』のモンブランを食べてみればいいんだ。
 ぜったいおいしいって思うはずだから。

 そんなことを考えながら渡り廊下を歩き、わたしはそっと外へ出た。
 ここは入学式の日、校舎のなかで迷子になって、偶然見つけた場所だ。

 わたしたちの教室がある南校舎とひとけのない北校舎の間の、草木の生い茂った裏庭。
 そこにおおきな桜の木があって、壊れかけた古いベンチがひとつ置いてある。

 なんだかわたしだけの秘密の場所みたいで、今度ひとりで来てみようと思ってたんだ。
 まだ朝も早いし、こんなところに来るひとはいないだろうから、そこでおにぎりを食べよう。