「いただきまぁす!」

 元気に叫んで、おおきな口を開ける。
 ふわっとやわらかいスポンジケーキと、あまーいマロンクリームと生クリームのコンボが、口のなかでやさしくとろける。

「おいひー!」

 しあわせ。なんてしあわせなの、わたし。

 もう一度おおきな口を開け、モンブランを食べようとした瞬間、「ギャー」という叫び声が後ろから聞こえた。

「えっ、なに?」

 驚いて振り向くと、ベンチの後ろの茂みのなかで、なにかが激しく動いている。
 わたしはびくっと肩を震わせ、持っていたモンブランを、あわてて箱に戻した。

「くそっ! 待てっ! このチビ猫め!」

 男のひとの怒鳴り声。怖い。なにが起こっているの?
 逃げるようにベンチを立ち上がった瞬間、ガサッと茂みのなかから、ちいさな茶色い子猫が飛び跳ねてきた。

「ひえっ」

 驚いてしりもちをついてしまったわたしの上を飛び越え、子猫が素早く走り去っていく。
 それにつづき、ふたたび茂みのなかから、なにかが飛びだす。

「ちくしょう。また逃げやがった」

 逃げ去った猫をにらみつけ、悔しそうにつぶやく男のひと……ていうか……