桜が散りはじめた公園に、人影はなかった。
 やわらかい風が吹き、花びらがいちまい、にまい、はらはらと落ちてくる。
 わたしはブランコのそばのベンチに座って、ケーキの箱をやさしくなでる。

 おじいちゃんに見つかる前に、ここで食べちゃえばいいんだ。
 お腹もすいてるし、なにより早くモンブランを食べたい。

 春のぬるい風に吹かれながら、ワクワクした気持ちで丁寧に箱を開く。
 するとふわっとあまい匂いが広がり、鼻をかすめた。
 箱のなかには栗色のモンブランがちょこんとひとつ、お行儀よく入っている。

 わぁ、夢にまで見たモンブランだ!

 この前食べたのは、クリスマス。
 ひとり自分の部屋にかくれて、こっそり食べたんだっけ。

 でもわたしはもう高校生。
 これからはおこづかいのある限り、自分でケーキが買えるんだ。
 そしてこのケーキは、その記念すべき第一歩。

 ドキドキしながらモンブランを取りだし、まわりを見まわす。
 うん、誰もいない。フォークもお皿もないから、このままがぶっといっちゃおう。