千彰先輩が箱に入れてくれたケーキを胸に抱えて、わたしたちは店を出た。
 店の前には、まだ長い列がつづいている。
 違う学校の制服を着た、女子生徒たちもいる。

 千彰先輩って、毎日こんなにたくさんのひとを相手にしてるのかなぁ。
 いくら自分の店だといえ、大変すぎる。

「ス、ステキだったね、千彰先輩」

 藍ちゃんがぽーっとした顔のまま言う。

「う、うん。あたしたちみたいな、見知らぬ一年生にもやさしかったし」

 香奈ちゃんもやっぱりぽーっとしている。

「また来たいね。『マロンクリーム』」
「うん。また来ようよ」

 ふたりが手を取りあって、約束する。
 わたしは胸に抱えたちいさな箱を見下ろした。

 あまい匂い。おいしそう。早く食べたい。
 わたしの頭のなかは、モンブランのことでいっぱいだ。

「じゃあ、あたしたちの家はこっちだから。桃花、ひとりで帰れる?」

 香奈ちゃんが、わかれ道でそう言った。

「え、あ、うん」
「迷子にならないようにね」
「大丈夫だよぉ、もう高校生なんだから」

 笑っているふたりに手を振って、わたしはひとりで住宅街を歩いた。

 どうしようかな、このケーキ。
 家にはおじいちゃんがいるから持って帰れない。

 歩きながら、きょろきょろとあたりを見まわす。

「あ、そうだ!」

 わたしはケーキを大事に抱えて、近くにあった公園に駆け込んだ。