「ごごごごめんなさいッ。私、もっとちゃんと……ッ」

「いいんだ。いいんだよ、フレヤ。そんな事は気にしなくていいんだ」

「だけど」

「フレヤ、フレヤ落ち着きなさい」


ふたりしてカップを置いて、呼吸を整える。
お爺さんの節くれだった手が、私を落ち着かせようひたすら掌で制してくる。

まあまあ。
どうどう。


「……あのね、お爺さん。私ね」

「ああ、わかったよ。聞いてあげるから、ゆっくり話てごらん」

「ええ、そうね」


胸を押さえて、上目遣いでお爺さんを見つめる。
お爺さんは、私から何が飛び出すかと、優しい顔に緊張を浮かべた。

私は、ついに、訊ねた。


「私、お爺さんの名前、聞いた?」

「……」


お爺さんはキョトンとしている。


「あのね。私、自分が名乗った記憶もその……曖昧なの」

「……」


お爺さんの目が、キュルンと上を向いた。
衰えた記憶力を総動員して、出会いの光景を思い描こうとしているようだ。