「…待って」


だが、私は彼に右腕を掴まれたことによって前へ進むことができなかった。


「…俺は必要なくなったの?」

「そう、だよ」


いつもと変わらない声で私に質問をする矢野くんに私は苦し紛れに答える。


「吉田さんの好きな人が吉田さんに振り向いたってこと?」

「…うん」

「それは誰?どこのどいつなの?」

「…矢野くんが知らない人」

「ふーん」


矢野くんの声がどんどん低くなっている気がする。
聞いたことのない、怒っているようなその声に私は思わず後ろを振り向いた。


「…っ」


私の目に飛び込んできた予想外の矢野くんの姿に私は思わず驚きで目を見開く。

矢野くんは笑っていた。だが、その目には光はなく、表情はどこか危うげだ。
まるで何かに絶望しているようだ。


「…どうしたの?」

「俺はずっと吉田さんの想い人を探してた。そいつが俺のライバルだったから。それで吉田さんの気が変わる前にこの都合の良い関係を続けて本当の恋人同士になりたかった」

「…え」


様子がおかしい矢野くんからおかしな言葉ばかり返ってくる。
まるで私のことが好きだと言っているようなそんな言葉。