ある日プツンと自分の中の何が切れた。これ以上は耐えられない、と。
そう思った私は放課後の帰り道、いつものように私の横を歩く彼に別れを告げる決意を固めた。
「…矢野くん」
「ん?どうしたの?吉田さん」
意を決して彼の名前を呼べば低く聞き心地のよい彼の返事が私の耳へ届いた。
大好きなこの声も今はとても心苦しい。
「別れよっか」
「…え」
苦しい想いを言葉にする。
すると彼は困惑したような声を出し、その場に止まった。
急すぎる話で頭がついてこないのだろう。
「片岡さんのこと最後まで付き合ってあげられなくてごめんね。だけどもう私には〝恋人〟は必要ないの」
「…」
にっこりと心苦しい想いが伝わらないように笑う私をただ黙って見つめる彼。
「今までありがとう」
本当にありがとう。夢のような時間を過ごさせてくれて。
こんな贅沢きっと2度と味わえない。
私は笑顔で彼にお礼を伝えると彼に背を向け再び歩き出した。泣いている姿を彼に見られたくはない。
私は最後まで彼にとって悪魔のような女でいたい。



