ずっと彼が好きだった。




最初は一目惚れ。入学式の日、同じクラスにいた彼が目に入った瞬間、私は彼に心を奪われた。

真っ黒で柔らかそうなサラサラの髪に整った美しい顔。きっと私だけではなく、クラス中、いや学校中の女子が彼の美貌に釘付けになったのではないだろうか。

私はその日から半年、ずっと陰ながら彼を見続けていた。

クラスメイトとして話すことはあってもそれだけの関係。それでも私はそれで満足していた。



だが、彼を好きなって半年後、私と彼の関係は大きく変わった。


たまたま見てしまった放課後のあの光景。
楽しそうに話す彼の幼なじみである美少女の彼女の横で幸せそうに笑う彼。

そんな彼の姿を見た時に私はすぐに彼が彼女のことを好きなのだとわかった。そして彼が彼女に片想いしていることも。

あの時の私はなんであんなにも大胆だったのか今でもわからない。
その日、彼が1人になった後、私は彼に声をかけた。


「片岡さんが好きなんだね」と。


片岡さんとは彼の幼なじみの名前だ。彼は意外にも落ち着いた様子で「そうだよ」とただ飄々と私に答えた。


「…片岡さんも矢野くんがきっと好きだよ。だけどそれは幼なじみとしてかもしれない。だから片岡さんに矢野くんを意識してもらおう。矢野くんが恋人を作ってしまえばいいんだよ」


それは私が彼にした悪魔の囁きだった。

彼が恋人を作っても片岡さんが自分の気持ちに気づく確証なんてどこにもない。
それどころか片岡さんの気持ちなんてそもそもわからない。彼を好きではないかもしれない。

だが、それでも悪魔になった私はこれをチャンスだと思った。


「私も好きな人がいるんだ。矢野くんと一緒。どうしても振り向いて欲しいから恋人を作ってみることにしたの。どうかな?私たちが付き合ったら利害関係が一致しない?」


あくまで私たちはニセモノ。そう思えばお互いに気が楽だし、手が出しやすいと思った。


「…そうだね。付き合ってみようか、俺たち」


そうして彼は悪魔の囁きを受け入れた。
極上に甘い笑顔を浮かべて。