《said.風間湊》

毎週金曜日。俺は必ずあの場所に行く。いつか彼女がまた来てくれると信じて。


バイクをとばして数時間の場所。小学生時代を俺はここで過ごした。なーんもない田舎町。もう何年もこの生活を続けた。やめようとした時もあった。


だけど金曜日は毎週訪れるわけで、結局俺は彼女の面影を求めて丘へ行く。


バイクを止めてヘルメットを外す。今日だっていないのはわかってる、そう思っても会いたいと思ってしまう。持っているメットを拳で軽く叩く。


長い長い木製の階段を登りテッペンに着いた時そこには人が立っていた。顔とかはよく見えない。


だけど夕陽に輝かされるキラキラとしたブロンド。幼い時の思い出が蘇る。

「は…。…りぃ?」


一歩一歩ゆっくりと近づく。早くそばに行きたいのにまるで夢の中のようにふわふわして、足に力が入らない。


数メートルの距離まできた時にその子は振り返った。一瞬見えた顔立ちは昔の彼女を成長させた感じで。


「リリィ、リリィなのか!?」


彼女はその大声に驚いてのか俺が来た方とは反対側の階段に走り出す。


逃げられた…その事実を受け止めきれなくてフリーズ。だけど階段を降りて消えていく後ろ姿を捉えて俺も走り出した。


「待て!!待ってくれ、頼むから!」


足はやっ。それでも俺の方が降りるのが早くてだんだん距離は縮まる。階段の曲がり角、崖のようなところで止まった彼女。


やっと止まってくれた。そう思ったのに俺が彼女の腕を掴むか掴まないかの瀬戸際で…崖から飛び降りた。俺も迷わず飛び込む。たしか下は……記憶を辿る。……川だ。


昔同じような状況に陥ったことがある。その時はその手を掴めなかった。飛び込む勇気がなかった。


だけど今は


腕を伸ばして彼女の腕を引き、力いっぱい抱きしめる。絶対に今度こそ守る。


8月末の空が視界に入った。俺はこの空が大嫌いだ。俺の世界だ止まった日。


彼女が消えた日。


____ドボンっ


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《side. 本郷波瑠》

「ごほっ、ゲホゲホッ……はあはあ」


何とか湊の巨体を引っ張り岸に上がる。まさか湊まで飛び込むとは思いもしなかった。

胸に耳を当てる。うん、息はしてる。生きてる。大丈夫。


湊の顔にかかった白い髪を横に分ける。ほんっと水に滴っててもイイ顔だよなぁ。ムカつくほどに。


起きないだろうと、頬をつねる。あ、眉間に皺よった。クスクスと笑っていると草をかき分けてくる足音が一つ。


「ちょっと目を離したらどうして崖から紐なしバンジーしてるんだ、うちの姫は」


「あ、匡。探した?」