だけど、今の彼とは付き合ってもう三年になる。
 同じ大学の、同じサークルの、後輩だった。半年に一度の同窓会につまらなそうな顔をするのも、最初は面倒だと感じていたけれど、今は可愛らしいと思えるくらいには、私はちゃんと彼に恋していると思う。
 彼を、失いたくはない。でも、嘘もつきたくはない。
 ああ、やだなぁ。やだなぁ。
 脳内でわめき散らしながら歩いていれば、いつの間にか駅に着いていたらしい。どこだここはと駅名を見れば、己の最寄り駅からたったの二駅しか離れていなかった。
 こんな近くに住んでたのか。
 知ったところで何の得にもならないそれを頭の隅に放り投げて、切符を買う。改札を抜けて、タイミングよく到着した目的の車両に乗り込んで、あ、携帯マナーにしなきゃと思ったところで、はたと気付く。
 あの男、染谷匡は言っていた。「携帯、さっきから鳴ってっけど」と。
 やっ……べぇ!
 慌ててバックから携帯を取り出し、ディスプレイを点す。着信二十八件と記されたポップアップに、血の気が引いたのは言うまでもないだろう。
 たらたら、たらたら。冷や汗が止まらない。これはやべぇぞと思っていたら、見計らったかのようにガタガタと携帯が震え出す。
 良かった。マナーになってた。
 なんて思ったのもつかの間、ディスプレイに表示された彼の名前に、ひぇ、と情けない声がもれた。
 で、電車の中だから、仕方ないよね。家に帰ってから折り返せばいいわ。
 そう己に言い聞かせて、携帯をそっとバックにしまった。