「傲慢か……。どんな奴なんだろうな」





赤星は腕を組んで唸るもイメージが湧かないのか、すぐに考えるのを止めた。
椎名も彼同様にイメージが湧かないようで、頭を捻るだけだった。
対して、一颯と汐里の脳裏には一人の男の浮かんでいた。
だが、この場で言ったところで「それはないだろ」と否定されるだけなので、口には出さない。





ふと、一颯の視線に瀬戸が映る。
先程から話は聞いているようだが、一向に話そうとしない。
猿渡は瀬戸を知っている。
だが、瀬戸は猿渡を知らない。





「瀬戸、猿渡のことやっぱり心当たりはないか?」






「覚えている限りではありません」





「……そうか。なら、何か少しでも思い出したら言ってくれな」






一颯の言葉に瀬戸は小さく頷く。
本当に心当たりは無いのかと内心は疑った。
だが、瀬戸には目で見て分かる動揺などはない。
何か隠そうとすれば、何かしら動揺や視線を反らしたりする場合が多い。
瀬戸は顔に出やすい性格だ、いくら刑事として感情を殺すことが容易に出来るタイプではない。






汐里も瀬戸の様子を見て、彼がシロであることを確認する。
それはあくまでも、だ。
瀬戸は恐らく何も知らない。
だが、何もかもがタイミングが良すぎるのだ。
瀬戸の異動と七つの大罪の再始動、瀬戸の妹のインターン。
偶然が重なりすぎても怪しく思ってしまうのは警察官の性なのかもしれない。







ふと、汐里のスマートフォンに着信が入る。
ディスプレイに表示されているのは面倒で消さずに残していた氷室の電話番号だった。
予期せぬ人物からの着信に怪訝な顔をすれば、一颯が「どうしたんですか?」と頭を傾げる。
此処で氷室からだと言えば、彼も心底嫌そうな顔をするだろう。
何せ、一颯は氷室に苦手意識を持っている。






「……もしもし」






『氷室だ。今平気か?』





「入院中で暇をもて余しているアンタと違ってこっちは仕事中だ。平気かと聞くくらいなら連絡を寄越すな。……で、何だ?」






入院中で暇をもて余している、という言葉で周りは電話の相手が氷室であることを察する。
椎名と赤星と瀬戸は「未練タラタラ刑事」と罵り、一颯は予想通り心底嫌そうな顔をしていた。
予想通りの一颯の反応に、汐里はつい頬が緩む。





『……傲慢には気を付けろ』






「またそれか。憤怒といい、傲慢はどれだけ人に恐れられているんだ?」







『奴は危険だ。……汐里、くれぐれも接触には注意しろ』






それだけを伝えて、氷室からの通話は切れてしまった。
忠告だけして、理由を教えてくれない。
それは憤怒と変わりはないが、氷室が忠告するということは余程のことだ。
氷室は、公安は恐らく傲慢の正体に気付いている。
それでも、容易に逮捕できない人物。
汐里はスマートフォンをポケットにしまうと、ため息を吐いた。






「接触には注意しろって言ったって、もう接触してるし……」