「これで被害者は二人目……」






初めて《luxuria》という文字が刻まれた遺体が見つかってから数日。
早くも二人目の被害者が出てしまった。
前と同じく惨殺され、身体には《luxuria》の文字が刻まれ、蠍の焼き印がされていた。
一颯は遺体の凄惨さに逃げないようとする瀬戸の首根っこを掴みながら、遺体の検分をしている汐里に声をかける。





「前の事件と類似してますね」






「ああ。前と同じく鋭利な刃物で腹を滅多刺しにされて殺されてる。でも、焼き印があるな。これは蠍?身元は?」






「はい。運転免許証から片山亘さん、32歳ということが分かりました。社員証を携帯していて前回の被害者、才賀遼太郎さんと同じ会社と判明してます」






一颯の説明に、汐里は顔をしかめた。
同じ会社の社員が短期間に二人も惨殺されている。
何かある、それは素人でも分かることだ。





「同じ会社で、被害者が二人……」






一颯に首根っこを掴まれている瀬戸は逃げ腰になりながらも薄目で現場を見て、そう呟く。
が、あまりの凄惨さに顔を青ざめる。
そんな瀬戸に、汐里はため息を吐く。





「普段の上から目線はどうした……」





瀬戸が捜査一課に異動してきて数日。
彼は署長の息子というのを鼻にかけ、教育係である一颯や唯一女で捜査一課にいる汐里を見下している。
かといって、汐里が黙っている訳がないので、瀬戸が何か上からものを言えばゴングが鳴り響く。
数日間にカァン、という音が何度鳴ったことか。





「現場に来ると、本当に役に立たないな。普段あーだこーだ言うくらいなら現場をでもあーだこーだ文句たれてろよ」





「京さん、言葉にオブラート。あんまり言うと、飛ばされますよ?」





瀬戸は何かあると、父である署長の名前を出してくる。
そうすれば、誰も何も言えなくなると思っているのだ。
だが、それが通用する捜査一課のメンツではない。
オッサンのような残念美人の汐里を始め、元ヤンの椎名、ポメラニアンに見せかけたドーベルマンの赤星、その他の刑事。
彼らは凶悪犯相手に身体を張っているだけあって、上の圧力には屈しない。