「京さん、落ちるから身を乗り出さないでください!」






「落ちない!」





「貴女、今酔ってますよね!?危険ですから!」





一颯と汐里の騒がしいやり取りにも騒がしい程のサイレンの音でも瀬戸は起きない。
一颯達はパトカーが停まったことを確認するとベランダから中に戻って、外に出ていく支度をする。
途中、汐里がいつまでも寝転ける瀬戸を叩き起こす。
「うぐッ!?」と呻いた瀬戸を声を聞く限り腹を踏まれたのかもしれないが、一颯はそれを気にすることなく、部屋を飛び出した。





三階建てのマンションはエレベーターを待つより階段を駆け降りる方が早いので、一颯達はそうする。
マンションを出れば、既に野次馬が大勢いて、スマートフォンで写真を撮っている者もいる。
不謹慎だ、と思いつつも一颯達は野次馬を掻き分けて前の方へと出た。
前の方では既に警察が規制線を張っていて、近づけなくなっていた。






「危険ですので、下がってください!」





警察官の言葉に、一颯達は持ってきていた警察手帳を見せて中に入らせてもらう。
中では消防が懸命に放水作業を行っており、隣の住宅への延焼を食い飲めようとしている。
しかし、炎は激しく燃え続けていた。
ふと、一颯は汐里の方を見やる。






汐里は炎をただ呆然と見つめている。
二年前に神室に唆され、娘の仇を殺して自分達も焼身自殺を謀った恩師夫婦。
汐里は彼らを助けようとしたが、一颯が止めている。
恩師も彼女を燃え盛る建物から出している。
それでも、恩師夫婦が犯罪を犯して死んで、生かされた彼女は深く傷付いていた。







「お前達、何故此処に……」





声がした先には椎名と赤星がいて、現場にいるとは思わなかった一颯達の姿に驚いているようだった。





「椎名さん、赤星さん。お疲れさまです」





一颯と瀬戸が挨拶すれば、二人は一颯達に駆け寄ってくる。
汐里は椎名達の姿に反応はなく、ただ炎を見続けていた。





「浅川、何で此処に?」





「うち、そこのマンションなんです。三人で飲んで寝落ちして、サイレンの音がしたからベランダに出てみたら火事が起きてて……」





「そこ!?めっちゃオシャマンじゃん!」





赤星は一颯が指差す方を見て、オシャレなデザイナーズマンションだったことからぎょっとする。
椎名は「あそこ、家賃高くなかったか?」と小さな声で呟く。
確かに高いが、ボンボン育ちの一颯にはまだ安い方だと思っている。