「人の命をまだ弄ぶのか……」






一颯は固く拳を握り締める。
二年前に神室に唆されて、罪を犯した人たちを何人か見てきた。
その中には彼の親友がいて、汐里の恩師もいた。
彼らは罪を犯し、法で裁かれる前に自ら命を絶っている。
それは彼らが大切な人を思い犯した罪を悔やんでではない。
大切な人を守るためだった。





彼らは恐らく、神室に唆されなければ罪を犯すことはなかった。
神室に唆され、罪を犯した。
それは人を見下し、命を軽んじている神室が招いた罪。
神室は犯罪者として裁くべきだ。
だが、警察は神室を捕まえられていない。
二年経った、いや、汐里の父を殺した頃も合わせれば十二年も野放しにしているのだ。
現に今も神室の姿はもう一颯の視線の先にはいなかった。






「浅川、瀬戸」





氷室達の方に行っていた汐里が一颯と瀬戸の下に戻ってきた。






「色島は?」






「ほぼ即死だ。眉間を撃ち抜かれてる。《七つの大罪》の幹部を捕まえたのに、何の手掛かりも無しだ」






「死人に口なし、ですからね」






「どうせ、神室の仕業だ。自分が危うくなれば、仲間でさえも殺す。……いや、奴には仲間という概念はないのかもしれないな」






汐里も一颯同様神室の性格を熟知している。
だからこそ、今回の事件ではっきりさせたかったのだ。
《七つの大罪》が本格的に動き出しているのか、を。
だが、はっきりした。






「《七つの大罪》に関連した事件が今後多発するだろうな」






「最低でもあと六つは起きると思っていた方が良さそうですね」






「六つで済めば良いがな……」






幹部六人の他に神室がいる。
あの男が何もせずに傍観しているはずがない、と一颯も汐里も思っている。
瀬戸は険しい顔をする二人の先輩をよそに、頭を傾げていた。
《七つの大罪》のことを口頭や資料でしか知らない瀬戸には神室は実在していた、という感覚でしかないようだ。






その後、色島望について公安が調べたものを見せてもらったが、神室同様謎が多い女だった。
本名不明の無戸籍で、生まれも生年月日も年齢層も不明。
色島望という名前も偽名だった。
偽名も複数あり使い分けていたようだが、基本的には色島望を名乗っていたようだった。