数日後。
一颯は汐里と共に久宝の妻と娘の元に来ていた。
自宅はマスコミに囲われて平穏では無くなっていたので、親子は都内のホテルへと身を寄せていた。
久宝の妻、小雪は一颯の姿を見るなり、深々と頭を下げてきた。







「東雲官房長官のご子息が警察官であることは夫から聞いておりました。この度は夫が――」







「頭を上げてください。今日はそんなことをさせるために来たわけではないので……」






「では、何故……」






「貴方がたの様子を見に来ました」






頭を捻った小雪はすっかり窶れていた。
それもそうだ、テレビやら雑誌、新聞では久宝の逮捕を多く取り扱っていて、自宅にはマスコミが押し寄せる。
夫の逮捕で心労を抱えてもおかしくないのに、世間からは家族への容赦ない誹謗中傷。
それらは小雪を窶れさせるには十分だった。






一颯の言葉に、小雪は力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。
そんな小雪に汐里は手を貸して立たせると、室内にあるソファーに座らせた。
すると、ベッドルームと思われる隣の部屋から小春が顔を出した。
小春はパッと見たところ元気そうだったが、一颯達の姿を見つけると駆け寄ってきて、一颯の足をバシバシと叩いた。







「お父さんを返して!」






「小春!」





小雪が小春を止めようとしたが、それを一颯が制した。
一颯は小春に視線を合わせるようにしゃがむと、優しく抱き締める。
抱き締められた小春は泣きじゃくりを上げながら、「お父さんを返して」「お兄ちゃん、お父さんを助けて」と訴えかけてくる。
だが、一颯には久宝を小春の元へ返すことも助けることも出来ない。







「ごめんね、小春ちゃん。お兄ちゃんが無力だから小春ちゃん達が苦しい思いをすることになっちゃったね……」





一颯は小春の小さな背中を優しく撫でてやることしか出来なかった。
耳には小雪のすすり泣く声も聞こえる。
紗綾の言った通りだった。
悲しみ苦しむのは被害者家族だけじゃない、加害者家族も悲しみ苦しむ。
世間の誹謗中傷、人の言葉という暴力は時に人を死へと陥れるのだ。
もしかしたら、言葉というものは刃物よりも凶器なのかもしれない。