「あの、篁さんが公安の刑事って本当ですか?」






「はい。私は汐里さんの言うとおり公安の刑事です。これまでずっと傲慢の動きを見るために東雲官房長官のSPと名乗りながら潜入していました」






「父はその事を?」






「ご存じでした。東雲官房長官は京警視の協力者で、ずっと傲慢である久宝公武の動向を探ってくださっていたんです」







篁が公安の刑事で、父が協力者。
父が久宝公武のことを探っていた。
恐らくそれが今回刺された原因なのかもしれない。
そうなれば、犯人は久宝である可能性が浮上する。
だが、おかしかった。





「父は久宝のこと知っていたのに、何故俺に隠していたんですか?隠していなければ、こんなことには……」





「それは貴方のためです、一颯君」






「俺の?」






「東雲官房長官は久宝の裏の顔に気付き、京警視に接触した。そこで、久宝の裏の顔を引き出すために自身が囮になることを提案したそうです」






「それが何で俺のためだと言うんですか?」






一颯は久寿が考えていることが分からなかった。
何故久宝の裏の顔に気付いたときに自分に言わなかったのか。
何故一般人である父が身体を張る必要があるのか。
父はやはり、自分を未熟な刑事だと思っていたのか。
そんな考えが脳裏を浸食する。






「……これは東雲官房長官に止められているんですけど、お話ししますね。東雲官房長官はただ貴方を守りたかったんです。父親として」






「え……」






「久宝は傲慢な男です。人を人として見ていません。そんな男が貴方が自身の近辺を調べ始めたと知ったら何をすると思いますか?何かしら悪事をでっち上げて、貴方を潰しにかかります」





篁は歯に衣着せぬ言い方をしたが、まさにその言葉の通りのことをしかねないのが久宝だ。
悪事をでっち上げられれば、一颯は刑事としては生きられなくなるだろう。
いや、一颯だけではない。
一颯の周りにいる汐里達まで責任を負う可能性がある。






それを久寿は良しとしなかった。
捜査一課の刑事になることは一颯の夢だ。
政治家になることを当たり前として育て、一颯もそれを受け入れていた。
だが、そんな一颯が自ら夢を見つけ、初めて夢のために父に反発した。
それは久寿にとって衝撃でもあり、嬉しくもあったのだ。





「……これは東雲官房長官に止められているんですけど、お話ししますね。あの人はこう言っていました、『一颯が自分で見つけてようやく叶った夢だ、他人なんかに壊させるか』と」







一颯は篁の話に唇を噛み締めた。
父はずっと自分の夢を応援してくれていたことは知っていた。
だが、身体を張ってまで応援してくれるとは思っても見なかった。
本当は自分の跡を継いで欲しかっただろうに。