「先に俺を呷ってきたのはそこにいる坊主だ!俺は他の人達をその坊主、犯罪者から守ろうとしただけだ!それなのに、その子が――」





「犯罪者が相手であろうと殴れば暴行罪、殺せば殺人罪だ」






「せ、正当防衛だ!」








「正当防衛は相手が自身に危害を加えようとした際に適用される」





客にそう声をかけたのは汐里で、今にも殴りかかりそうな一颯と客の間に割って入った。
そして、未希の方と客の方を交互に見て、客をキロリと睨んだ。




「状況を見る限り、これは正当防衛にはならないだろうな。あんたがやったことは立派な犯罪だ」





「くそが!」





逆上した客が花瓶を叩き割り、汐里に殴りかかってきた。
だが、そんな客の腕を掴んだ汐里は難なく捻り上げ、腕時計を見る。





「16時23分、公務執行妨害で現行犯逮捕。あと、器物損壊に暴行罪。何で罪を増やすかな……」





汐里は呆れながら客の手に手錠をかけた。
突然のことに理解が追い付いていない客を瀬戸に預け、汐里は一颯の方を見た。
そして、手加減なしの平手打ちを一颯の頬にお見舞いする。
「え!?」と瀬戸は目を見張り、椎名達は「痛そう音」と同情するような顔をしていた。





「お前、未希ちゃんを殴った相手をぶん殴る前にこっちが先なの分かってるか?」





汐里が顎で差した先にはカタツムリのタトゥーを手首に宿した少年がいる。
この少年が≪蝸牛≫、綾部光生であることは未希からのメールで分かっていた。
その上、七つの大罪の怠惰であることも分かっていた。
だが、一颯はそんなことよりも妹が怪我したことの方が大事に感じられた。






「……分かってます」






「なら、何で綾部の確保を優先しなかった?逃げられたかもしれないんだぞ」






「綾部は逃げないと判断しました」






「根拠は?」






「未希が、妹が身を挺して守ったものに間違いは無かったからです」






こんな身内贔屓の根拠のない根拠が通用するほど警察は甘くない。
だが、汐里はそれ以上追及はしなかった。
代わりに「戻ったら、始末書」と一颯の胸をトンと叩いて、未希と光生の前に膝をついた。





「未希ちゃんのお兄ちゃんは馬鹿だな。私の兄も馬鹿だと思ったが、それを超える馬鹿がいた」






汐里はハンカチを取り出すと未希の頬の血を拭い、殴られた頭を止血する。