泣きじゃくって話せなくなった依子の代わりに龍が説明した。



「実は・・・依子が小さい頃に離れ離れになったお父さんです。血のつながりはないんですが、依子はずっとお父さんお父さんと慕っていて、僕にも何度も話してくれました」



マイクを渡されたお父さんは、号泣していて、何も話せなかった。



先生が立ち上がり、拍手をしてくれて、会場中が拍手に包まれた。



涙をハンカチで拭いた依子は、お父さんのマイクをそっと手に取った。



「お父さん・・・私、お父さんと一緒に過ごした時間、すごく大切で・・・今まで一度も忘れたことなんてなかった」



お父さんは、依子からマイクを受け取り、何か言おうとしたが、涙で声が出なかった。




「昔お父さんと一緒にいつもガソリンを入れに行ってたことを今でもよく覚えていて。だから、ガソリンの匂いを嗅ぐと、お父さんを思い出すんです。出会った頃の龍は、車いじりが好きで、服にオイルの匂いが染み付いていたんです。だから・・・龍と一緒にいると、とても落ち着いて、どこかでお父さんを思い出していたのかも知れない」