「ごめんね、私誤解してた。そういう優しさを持った矢沢さんだから先生は好きになったんだね」
荒木は遠い目をして、ため息をついた。
俺は、最初に直を好きだと思った時のことを思い出していた。
どうして、直じゃなきゃいけなかったんだろう。
「私が彼女になったらきっとすぐに同窓会をして、みんなに自慢げに言ってると思う。先生と付き合えたんだよ、いいでしょ?って。そういうことができない子だから、先生は好きになったんだよね・・・」
俺は壁にもたれたまま、直を想う。
そうだな。
直は、自分のことなんていつも後回しで周りの人を気遣う子なんだ。
「運命なんだね、先生と矢沢さんは」
荒木の目に涙が浮かんでいた。
でも表情はとても優しくて、今までに見たことのない顔をしていた。
「俺と矢沢が運命だって言うなら、俺とお前だってある意味運命だよ。こんなにたくさんの人がいる中で、たった38人の俺のクラスの生徒になった。これからも、荒木は俺のかわいい教え子に変わりないし、それは一生変わらない。男と女という形ではお前のそばにいてやれないけど、高校時代の担任の先生ってことは消えないから」
荒木は、ありがとうと言って、涙を拭いた。

