隣の由紀も口をパクパクしながら私と大石さんを交互に見ている。
由紀に大石さんを会わせたことはなかったが、大石さんのフルネームを伝えていたし、すごい豪邸に住んでいるとも伝えていた。すぐに察したのだろう。

会場からは女子たちの控えめな黄色い歓声が聞こえた。
控えめだったのはきっと場を弁(わきま)えてのことだ。
こういう場でなかったら、間違いなくライブでアイドルが登場した時のように盛大な歓声が上がっていたことだろう。
あの容姿に、女子たちが騒がないはずがない…

大石さんと目が合った気がした。口角を上げて、少し微笑んだように見えた。

でもすぐにふぃ、と逸らされ、会場全体を見渡して挨拶を始めた。

「ただいまご紹介に与(あずか)りました、本日付けで副社長を拝命致しました大石 新です」

ーその後の挨拶は全く頭に入って来なかった。
パーティーがお開きになった後の記憶もない。

散々飲んだ上に、大石さんの正体がまさか自社の副社長だったと分かった後、明らかに動揺して一気に酔いが回った私を由紀が心配して一緒に帰ろうと言ってくれたが、由紀の家と私が今住んでいる大石さんの家はホテルの最寄り駅からは真逆の方向だった。