ただそれだけだったのに、

「俺、天野のこと、好きなんだ。付き合って欲しい」

告げられた一言に、戸惑った。

加賀美さんが、私のことを好き…

そんな可能性、考えたこともなかった。

誰かが私に好意を寄せてくれることがあるなんて、思ってもみなかったから。
自分でも自覚のある可愛げのない私を、社内で一番人気のあるあの加賀美さんが…

そこで初めて私は自分の気持ちに向き合った。

耳に心地よいテノールボイスで名前を呼ばれるのが好きだった。

その細くて繊細な手で頭をわしゃわしゃしてくれるのが、好きだった。

私も、好きだったんだ…

生まれて初めての両想いという経験に震えながら、私は彼とお付き合いすることにした。