それでも何も言わない私に慎太郎は、言いたくないなら無理には聞かないけど、とポリポリ困ったように後頭部を掻いた。

今日、本当は慎太郎に告白の返事をするつもりだった。好きな人がいるからごめんなさい、と。
その好きな人が大石さんだということまでは言うつもりはなかったけれど、ここまで追いかけた来てくれて心配してくれる彼に、私は正直に全部話そうと決めた。

大石さんとは元々は飲み友達で、私の失恋をきっかけに期間限定の彼氏として同居してくれることになったこと。
最初は何とも思ってなかったのに、いつの間にか好きになっていたこと。だから慎太郎とは付き合えないこと。
そしてさっき一緒にいたのが大石さんの婚約者らしく、もう一緒には住めないということ。

話しながら涙が止めどなく溢れてくる。
自分がこんなに泣き虫だとは今まで知らなかった。

全てを聞き終えると慎太郎は、そういうことか、と呟いた。

「…初めて沙耶香の会社のロビーで副社長に会った時、俺めっちゃ睨まれてんなーと思ったんだよな」

しかも俺今サラッと振られたし、そう言って苦笑いする。