お父様はバリキャリだった私も驚くほどの社畜だ。いや、会社じゃないんだけど。国に仕えてる右宰相なんだけど。めっちゃブラック企業だよ。この国。企業じゃないけど。
 ああ、この国、宰相はふたりいる。右大臣左大臣じゃないけど、右宰相と左宰相。どっちが上とかはない。
 家に仕事の持ち帰りは当たり前。ってなわけで、今日も朝食前に執務室にこもっているはずのお父様に突撃です。
「おとうちゃまーっ!」
 ドアをノックもせずに入った私を責めもせず、父親であるボンパーナ公爵は書類を3枚ほど床に散らしながら立ち上がる。
「おお、リザベーナ、どうしたんだ?怖い夢でも見たのか?」
 世間では鬼の右宰相と言われる厳しい顔つきの父が、だらしなく目じりを下げる。
 そのまま思い切り父親に抱き着く。
 ここは、あざとく幼女の武器を発揮せねばなのですよ。じゃないと、死亡フラグ回避計画が……。
「あのね、おとうしゃま、私の誕生日会もうしゅぐでしょ?」
「おお、そうだぞ。やっと、かわいいかわいいリザベーナを皆に紹介できるんだ。なんだ?ドレスが気にいらないかい?だったら別のドレスを注文しよう。なぁに、10日かかるといわれたって、3日後の誕生日会までに間に合わせるようになんとかしてやろう」
 ……おおう、かわいい娘のわがままを叶えるために、周りに無理難題を押し付けちゃいけませんよ、お父様……。
「あのね、リザね、公爵令嬢やめるの。おにいしゃまと同じ、公爵令息になりたいのよ!」
「は?どういうことだ?」
 なんと、この世界ですね、4歳の誕生日になるまで子供の誕生は公表されないんです。
 なぜって、日本でも昔は七五三のお祝いあったように、幼子の死亡率が高いから。「生まれました、おめでとう、死にました」が繰り返されると、王侯貴族では跡継ぎやら婚約者決めやら、いろいろと面倒だということで、4歳の誕生日を迎えて初めて「〇〇家にお子様がお生まれになりました」って公表するわけなのよ。
 つまり……、まだ、私リザベーナという”娘”がボンパーナ公爵家に生まれたということは、家族と住み込みで働いている口の堅い侍女や執事たちしか知らないのです。
「いやいや、リザベーナは兄たちとは違って、娘だから、令息にはなれないよ?」
 そこを、なんとか!