「リアーナにもそんな苦労を掛けるかと思うと……」
 母が、ハンカチに顔をうずめた。
「すまない。本当に、すまない、リアーナ。断ることができなかったのだ……」
 知らなかった。エスティーナがそんな貧乏な国だったなんて。
「お父様、もし宝石が産出できなくなったらどうなるんでしょうか……」
 父が眉根を寄せる。
「食べられるパンの量が減るだろう」
 小さく頷く。
「中には、十分に食べられなくて命を落とす者が出てくるかもしれない」
 奥歯をかみしめてこくんと頷く。
「身売りをする者が出て、人から盗む者が出て……国内は荒れるかもしれない」
 ぎゅっと硬くこぶしを握り占める。
「弱体化した我が国に、隣国が攻め込み戦争にな……」
「お父様!わかりましたっ!」
 そんなの、いやだ。
「私、国母になります。皇太子殿下と婚約して結婚して、後々は王妃になり、立派にその役目を全うします。贅沢はせず、ほかの国に隙を見せず……」
「リアーナっ」
 母が、私をぎゅっと抱きしめる。
「お母様、大丈夫ですよ。私、顔だけは華やかでしょう?貧乏生活していても、とてもそうは見えないと思うんです。今だって、お茶会に同じ服を着て言っても誰も貧乏だなんて思わないんですもの。このドレス一番のお気に入りですのって言えば、みんな信じてしまうんですよ?」
「ああ、そうだ。今だって、決して公爵家の娘とは思えない生活をしていたな……」
 父が、私と母の背中をなでた。
「すまない……」
 
 はー。衝撃的な話を聞いてしまった。
 うちの国、貧乏だったんだ。……王妃様にはすっかり騙されてたよ。
 あんなに着飾る金があるなら、宰相やってる父の給料もっと増やしてくれ!とか思ってたくらいだもん。ごめんなさい。
 うーん、それにしても……。
 2代前から緊縮財政か。いつまで宝石は産出されるんだろう。いつまで、食料は輸入できるんだろう……。
 ぶるぶると身震いする。
 節約じゃぁどうにもならなくなったらどうなるの?
 駄目だよね、このままじゃ。もっと他に何か金を稼ぐ方法ないのかな?
 宝石以外に……。
 山が7割、その山から他に何か取れないのかな?
 うーん。
 よし!決めた!
「お父様、私、旅に出ます」
 翌朝、食堂で父に宣言。
「ちょ、リアーナ、まさか、どうして、傷心の旅に出るとでも?そんなに皇太子殿下との婚約がいやならば……」