記憶喪失が幸いしてか、腫れ物にでも触るように私の回りは静かで、今のところわりと自由に過ごすことができている。

なにせ城の構造も街の様子もわからないのだ。いろいろ覚えるためにはうろうろと歩き回らないといけないと思う。

「何も覚えていないので色々見て回っていいですか?」

そう尋ねた私に、王様は快く許可してくださった。たくさんの刺激を与えることで記憶が戻る可能性があるそうだ。それに期待しているらしい。

「思い出せるように頑張ります」

なんていい子ぶってみたけれど、残念ながら王様、シャルロットの中身は菜子です。騙してごめんなさいね。不可抗力ですけど。

一応心の中で謝っておいた。


この国は城を中心として栄えており、城のまわりに円を描くようにして街並みができあがっている。森や林も多く点在し川も流れ、自然豊かな国だ。

城内は広く、王城だけでなく図書館や騎士団の宿舎もあり、王族以外にも開放されたエリアがある。特に図書館は庶民にも広く開放され、開館時間内なら誰でも出入り可能だ。今の王様が庶民にも平等な教育を推奨するために始めたことらしい。

これは司書である私としては絶対押さえておきたい場所だ。
どんな図書館なのか、考えただけでわくわくする。