「あんこさん、俺と一緒に北海道に来てほしい」


東堂社長の顔を見たら、精一杯の告白だとわかった。


いつもみたいに冗談で済ませられないって思った。


「東堂社長。あなたの気持ち、すごく嬉しいよ。だけど…私には『杏』がある。北海道に行くのは無理だよ」


「どうしても…無理か?」


私は少し悩んで、答えた。


「ごめん…『杏』は私の生きがいだから。ここでずっとこの店を守っていきたいから」


私は、パンが好き。


パンを食べて喜んでくれる人の顔を見るのも好き。


それに、ここでお店をやりたいって、がむしゃらに頑張ってきた自負もある。


でも…


東堂社長のことだってずっと大切に思ってきた。


まさか、こんな告白、一生ないと思ってたのにね。


北海道に行くから一緒に…って、急にそんなこと言われても…


正直、今は、ここに留まるとしか言えなかった。