私は"あの場所"という名のコスモスと名知らぬ青い花が一面に咲いている花畑へと向かっている。

花の名前はもちろん、わからない。でも美華吏なら知っているかもしれない。あの時から五年も経っているからだ。

曲がり角が多い道を下っていき、河川敷へと向かう。

美華吏に会ったらなんて謝ろう。臆病な優等生だった私を、同じ優等生として双子の兄として、私を支えてくれていた美華吏。そんな大切な人を忘れてしまっていたなんて、みっともない。穴があったら入りたい。

あの時、母を庇わければよかった。

そう思った瞬間、後悔する。

私が庇わなかったら最悪の場合、母が亡くなっていたのかもしれない。そう考えればそれをかばった私も亡くなっていたのかもしれない。だから今を生きれているのは不幸中の幸いだ。

ようやく河川敷に着いた。アスファルトから陽炎が立ち上っている。

思い出した記憶を辿れば、林の先に"あの場所"はある。そして美華吏はそこで私を待っている。

美華吏は母が作ったあの子守唄を知っている。衝撃のことだったが、双子の兄とわかった今なら知っていてもおかしくはない。

私はふと腕時計を見る。

針は午後三時を差していた。まだ夕方とは言えない時間だ。

とはいえ、タイムリミットは今もなお、刻一刻と近づいてきている。

河川敷を勢いよく走る。