母はふいに思い出したような顔をしてそういった。

それどころではないけれど、肩をすくめながらもうなずいた。

さっきアルバムを見たのは結局のところ、何も思い出せなかったから、取り越し苦労といっても、おかしくはないだろう。

今度こそ私が、まだ思い出せていない記憶と関係しているのかもと、ひそかに期待を寄せながら。

「この前、久しぶりに庭にあった倉を開けてみたら、ピアノが出てきたの。それで今から売りに行こうと思うんだけど、手伝ってくれない?」

庭にそんなものがあったのか。十年以上も住んでいた家のはずなのに知らなかった。たぶん、記憶喪失の影響で思い出せなくなった記憶の一つだろう。

しかもピアノって、美華吏と関係している。何か手がかりが掴めるかもしれない。

それから庭にあった倉の方へ行く。倉はずいぶん古そうな感じだった。

さびついた青色の瓦屋根。近年に塗り直したかのように漆喰できれいに仕上げられている側面。そして、もう外れかけになっていた扉。

側面に塗られている漆喰以外はすべて年季があるように見えた。

「いつからあるの?」

「わかんない。ここが実家だったわけでもないしね。きっと随分前にここに住んでいた人が建てたんだと思うの。壁に塗ってある漆喰はね、元がすごくさびていてカビもあったから、業者に頼んで父と離婚する前に塗り直したんだ」